作品名:「コンビニ人間」
作者:村田沙耶香。
2016年上半期の芥川賞作品だ。又吉直樹の「火花」に続いて、こちらの作品を読んでみた。火花と違って、こちらのほうが芥川賞っぽい作品だ。
火花の時もそうだが、いまさらレビューを書く必要があるかというご意見はご容赦願いたい。?旬を過ぎていることは百も承知だ。
「コンビニ人間」作品について
200ページ以下の作品なので、読書が苦手な方でも4時間もあれば読めるだろう。作品としては、ポップでわかりやすい文章で読みやすい。物語の設定も、「コンビニでバリバリ働く女性」が主人公である為作品に入っていきやすいと思う。
裏表紙には本の内容の紹介文にはこのように記載されている。
・コンビニバイト歴18年、彼氏なしの36歳・・
・「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる・・。
・ある日婚活目的の新人男性がやってくる・・。
・現代の実存を軽やかに問う・・。
今っぽいテーマだ。読む前は、現代にありがちな「マニュアル人間」もしくは「指示待ち人間」の話か、それとも就職難でなくなくコンビニバイトし続けている悲哀がテーマなのか?と思っていた。
冒頭20ページで、「狂った女の話」と分かった。
そして、コンビニで働く前から「相当イカれていた」という設定が僕を苦しめた。そして、よく読むとわかるのだが、全員とは言わないが主人公を含む多くの登場人物が「どこか気持ち悪く描かれている」ことに気付く。
このことに、気付いたときに、村田氏の凄さに驚嘆した。
村田沙耶香氏が描く人物像の傾向
とはいえ、「こりゃまた、しんどいな」と思ってしまった。これは、作家との相性の問題だ。
過去に、村田沙耶香氏の「ギンイロのウタ」、「しろいろの街の、その骨の体温の」という作品を読んだ。どちらも、権威ある文学賞の受賞作である。
これら3作品から、僕が感じたキーワードは、「不気味」、「狂気」、「無機質」、「痛み」、「孤独」、「仄暗い」、「猟奇的な犯罪」、「救われない世界」等だ。読み手のアンテナの感度の差はあれど、読み進めてポップな気分になる人はいないだろう。
ヒタ、ヒタと迫ってくる感じ。じわり、じわりと息苦しくなる感じ。
若い頃であれば、意外にポップな感覚で読めた作品だとは思うが、もうダメだ。完読したが、読後感としては気持ちの良いものではなかった。とはいえ、なんだかんだで完読しているので、村田氏の作品作りが凄いということなのだろう。
「コンビニ人間」で筆者が描きたいこと。
社会人にもなれば、一度は正社員として組織に属さなければならない。36歳にもなれば結婚をしていなければならない等、世間が描く「普通」の価値観と抗っている人がいるよって描いている。
作品を通して「当たり前とはなにか?」、「普通とはなにか?」を自分に問いかけることになるのだろう。
こういった話題になると、「組織やマニュアルが個性をダメにする」とか「みんな違ってみんな良い(プリキュア)」とか、そういった声が聞こえがちだ。
とても理解できる反面、「まず受け入れてみては?案外居心地が良いかもよ?」と言いたい部分もある。アラフォー世代としては。
一度染まらないとわからないこともある、世間が言う「普通」を獲得したから感じることもあるし・・。
「まぁまぁ、そんな食わず嫌いせず、ちょっと染まったぐらいで個性は死なないよ」と言いたい。
個人的には、この主人公はクレイジーすぎるので、自己を重ねることはできない。他方、自らの性格・性癖・感性をマイノリティと認識し、「生き難い」と感じている人はどこか救われるかもしれない。
そのように、自分を客観視する為の「トリガー」になりうる作品だと思う。そういう意味では「芥川賞にふさわしい作品」なのかも・・。と思ったりしてみたり。