最大の原動力は「嫉妬」と聞いた記憶がある。
穏やかに過ぎていく日々のなかで、「そういや最近嫉妬してないな」と気付いた。
今から約10年前、27歳の僕は猛烈に「嫉妬」をしていた。
嫉妬の対象となったのは、同じ営業所の先輩営業マンだ。先輩とは同じ課で同じ商材を売り競い合っていた。デスクは隣りあわせだった。
彼は、圧倒的な人間力で顧客や取引先をグリップしており、他の営業マンが肩を並べることすらできなかった。
当時の僕は、先輩が強引な手法で数字を作る点や、数字至上主義でアクが強い性格である点を好ましくは思っていなかった。契約後のクレームも多くバックオフィスの評判も良くはなかった。
しかし、先輩は圧倒的な営業力で有無を言わせぬ雰囲気を醸し出していた。事実、僕が在籍していた7年間の内、10営業所の営業マンのなかで、成約件数10期連続(1年は2期でカウント、5年で10期)でトップを取り続けた人だった。
その頃の僕はというと、5位前後の営業成績をキープしていた。6年目、僕はついに半期だけトップを取ることに成功した。彼の11期目を阻止することになった。しかし、次の期ではまた先輩がトップを取り返すことになった。
たった1期とはいえ、追いついた瞬間に、傲慢な自分が生まれた。そして、トップの座を取り返された瞬間に「嫉妬心」が生まれた。
先輩は、ことあるごとに「半期でもトップを取られたことがとても悔しい」と言い、より一層強引な手法で数字を作った。
僕は、負けを認めている一方で、肩を並べた栄光にすがっていた。先輩の営業手法を卑下し、受け入れることが出来なかった。
心の中で、常に先輩をディスっている状態だった。
心の中で、人をディスるようになれば、当然表に出る。目つき、言動、振る舞いに現れる。変わってしまった僕の姿を察知して、先輩と僕の距離は少し離れた。
とはいえ、日々協業せざるを得ないこともあり、表面上はそれなりに振る舞っていた。しかし、一緒に飲みに行くことはなくなり、先輩とデスクを並べていることが苦しくなっていった。
掛け違えたボタンは元には戻らない。
そんな感覚だった。
このまま一緒にいると自我が崩壊すると思いこみ、僕は営業成績を大きく落とした。タイミングよく、他社から引き抜きのお話をいただき転職をした。
その後転職した会社は、5年で倒産の危機に見舞われ、再び転職をし現職に至るのだ。
当時27歳だった。苦い思い出だ。
今ならこう言える。
先輩の方がお前よりも、顧客に必要とされている。
だから、営業成績が良くギャラが高額で良い女が横にいるのだと。
そして、それら全て受け入れて、先輩に教えを請え。そうすれば、もっと稼げる営業マンになるだろうと。20代で最も必要な素質は「素直であること」だと。
賛否両論あれど、今でも正しいと思っている。
現在、僕はもう営業マンではない。
社会人になってからずっと営業マンだった。誰かと競い、数字を作り、成績が発表され、昇給やボーナスが決まる。転職後はそんな環境から離れることになった。
転職後の環境では、「嫉妬する」ことがなくなった 。
少数人数のチームであるが故、全員の役割が異なる為、各々の業務や働き方を尊重しなければ成り立たない。そういったことが根付いている職場である。そうでもしなければ、仕事の処理が追い付かない。
嫉妬する、同僚と競い合う、そんなシチュエーションが無い職場は初体験だが、今のところはうまくやれている。
今日で、転職して7カ月が経ちました。
ではでは。